公式資料をもとに整理
電気工事業の給料から天引きできるもの(道具代・事故弁償)
従業員の給料から差し引けるのは、所得税や社会保険料など法令で認められたものと、事業場の労使協定で決めたものに限られます。車両事故の弁償金を給料から引くことはできず、道具代なども労使協定なしに会社が一方的に引くことはできません。賃金の支払の5原則(通貨で・直接本人に・全額を・毎月1回以上・一定の期日に)と例外、天引きの可否、口座振込、罰則の順に見ていきます。
公開日: 2026-10-19 / 最終更新: 2026-10-19 / 診断ルールの確認日: 2026-07-26
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賃金支払の5原則と例外
労働基準法第24条は、賃金を通貨で、直接労働者に、その全額を支払うこと(第1項)、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払うこと(第2項)を定めています(e-Gov法令検索「労働基準法」)。厚生労働省は、この5つを賃金支払の5原則と整理しています(厚生労働省「事業主向け労働条件Q&A 賃金の支払方」)。
| 原則 | 例外 |
|---|---|
| 通貨払 | 法令または労働協約に別段の定めがある場合。厚生労働省令で定める賃金を、確実な支払方法で省令が定めるものにより支払う場合(口座振込など) |
| 直接払 | 本人以外への支払は禁止。ただし本人に支払うのと同じ効果を生じる使者への支払は差し支えないとされています(厚生労働省Q&A) |
| 全額払 | 法令に別段の定めがある場合。労働者の過半数で組織する労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合 |
| 毎月1回以上払 | 臨時に支払われる賃金、賞与など厚生労働省令で定める賃金 |
| 一定期日払 | 同上(毎月払の例外と同じ賃金) |
天引きできるもの・できないものの早見表
全額払の原則は、賃金の一部を差し引くことを原則として禁じています。例外として天引きできるのは、法令に定めがあるものと、労使協定があるものです(厚生労働省「労働条件Q&A 賃金の額や支払方法」)。
| 天引きの内容 | 可否 | 根拠・条件 |
|---|---|---|
| 所得税・住民税の源泉徴収 | できる | 所得税法第183条、地方税法第321条の5など法令の定め |
| 健康保険・厚生年金・労働保険の保険料 | できる | 健康保険法第167条、厚生年金保険法第84条、労働保険徴収法第31条など |
| 社内預金・購買代金・組合費 | 協定があればできる | 労使協定(労基法第24条第1項ただし書) |
| 事故・破損の損害賠償金 | できない | 損害賠償債権と賃金の相殺は全額払の原則に反するとされています |
| 前借金との相殺 | できない | 労基法第17条 |
労使協定は、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者との書面で結びます(労働基準法第24条第1項ただし書)。厚生労働省のQ&Aは、社内預金・購買代金・組合費を、協定があれば天引きできる例に挙げています。工具や作業服の代金が購買代金に当たるかは、この記事では判定できません。
弁償金と給料の相殺
厚生労働省のQ&Aは、使用者が労働者に損害賠償請求権を持っていても、それを賃金と相殺することはできないと説明しています。実際に損害が出たときは、賃金をいったん全額支払ったうえで、民事上の損害賠償を請求する形になります。
同じQ&Aは、損害賠償の請求も「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」に限られるとしています。運転中の追突事故で会社が修理費を支払った事案で、実損害額の4分の1の限度で請求が認められた最高裁判決が、例として挙げられています。
労働基準法第16条は、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額をあらかじめ決めたりする契約を禁じています。「現場で工具を壊したら1万円」のような定めを、就業規則や誓約書に置くことはできません。
例外として、厚生労働省のQ&Aは次の2つを紹介しています。賃金の過払いを後の賃金で清算する調整的相殺は、過払いの時期と合理的に近い時期で、労働者の生活を脅かさない場合に認められます。労働者が自由な意思で相殺に同意したと認めるに足りる客観的な理由があるときの合意も、有効とされます。
どちらも要件が厳しいため、実際に使う前に労働基準監督署に確認してください。
口座振込とデジタル払いの条件
口座振込で賃金を支払うには、労働基準法施行規則第7条の2第1項の同意を得たうえで、厚生労働省が整理する次の3つを満たす必要があります(厚生労働省「事業主向け労働条件Q&A」)。
- 労働者の同意があること
- 労働者が指定する本人名義の預貯金口座に振り込むこと
- 振り込んだ賃金の全額が、所定の賃金支払日に引き出せること
令和5年4月からは、労働者の同意を得れば、賃金のデジタル払い(指定資金移動業者の口座へのデジタルマネーでの支払)も認められています。始めるには必要事項の労使協定が必要で、銀行口座などの選択肢も示したうえで同意を得ます。デジタル払いを強制することはできません。
毎月払いの例外になる賃金
毎月払・一定期日払の例外は、臨時に支払われる賃金、賞与、そして労働基準法施行規則第8条の次の3つです(e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」)。
- 1か月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当
- 1か月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当
- 1か月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給または能率手当
賞与は「定期的に支給され、かつ支給額が確定しているものは、名称にかかわらず賞与とみなされない」とされています(厚生労働省Q&A)。毎年同額の「決算手当」を名前だけ賞与にしても、毎月払の例外にはなりません。
違反したときの罰則
第24条に違反した使用者は、30万円以下の罰金に処せられると定められています(労働基準法第120条第1号)。賠償予定の禁止(第16条)と前借金相殺の禁止(第17条)の違反は、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です(同法第119条第1号)。
この整理で言えないこと
- 個々の天引きが労使協定の範囲に入るか、過払いの清算や相殺の同意が有効かは、事実関係によって異なり、この記事では判定できません。
- 労使協定の書式、過半数代表者の選び方の細かい要件、退職時の賃金の支払時期は扱いません。
- 請負で働く一人親方への報酬の支払や、損害の負担の取り決めは扱いません。
公式窓口で確認する事項
本記事は一般的な制度整理であり、個別案件の法的判定、電気工事の施工・設計、申請書類の作成や提出代行を行うものではありません。天引きの可否、労使協定の結び方、相殺の扱いは、所轄の労働基準監督署または都道府県労働局で最終確認してください。
まだ自身の区分を確認していない場合は、回答を保存・送信しない電気工事業区分セルフチェックを使うと、新規開業時の4区分の目安を表示できます。
賃金の額の下限は最低賃金のガイド、賃金の記録は労働者名簿と賃金台帳のガイド、根拠法の全体像は労働基準法とは(目的・労働条件の明示・労働時間・割増賃金・有給休暇の条文ごとの内容)で確認できます。