公式資料をもとに整理
固定残業代が有効になる条件と不足分の支払い
固定残業代は、通常の賃金の部分と割増賃金の部分を判別できることが前提です。判別できなければ固定残業代として認められず、実際の残業時間で計算した割増賃金が別に必要になるおそれがあります。従業員を雇う電気工事業者が、最高裁判決と厚生労働省のQ&Aで、有効にするために確かめる点と、不足分の支払いを確認します。
公開日: 2026-10-20 / 最終更新: 2026-10-20 / 診断ルールの確認日: 2026-07-26
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先に結論:有効になる2つの条件
固定残業代とは、一定時間分の時間外労働、休日労働、深夜業に対する割増賃金として、定額で支払う賃金です。「定額残業手当」「みなし残業代」とも呼ばれ、基本給に組み込むタイプと、基本給とは別の手当にするタイプがあります。厚生労働省のQ&Aは、これを採用するときの条件を2つ示しています(厚生労働省「スタートアップ労働条件」Q&A)。
- 通常の労働時間の賃金に当たる部分と、割増賃金に当たる部分(固定残業代)を判別できるようにする。
- 固定残業代の額が、労働基準法第37条などの方法で計算した割増賃金の額を下回るときは、その差額を支払う。
つまり「固定残業代を払っているから、残業しても追加の残業代は不要」とは言えません。割増賃金の計算方法は残業代・割増賃金の計算のガイドで確認できます。
最高裁判決が示した判断のしかた
判別の要件は最高裁判決で示されています。判決原文を確認できた2件を、次の表にまとめます。
| 判決 | 示された考え方 | 結論 |
|---|---|---|
| 医療法人社団康心会事件(最高裁第二小法廷、平成29年7月7日) | 割増賃金をあらかじめ基本給等に含める方法自体は直ちに違法ではない。ただし、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分を判別できることが必要。 | 割増賃金に当たる部分が契約上明らかでなく、判別できないとされた(年俸1,700万円の医師の事案) |
| 国際自動車事件(最高裁第一小法廷、令和2年3月30日) | 手当が時間外労働の対価か(判別できるか)は、契約書等の記載のほか諸般の事情で判断する。手当の名称や算定方法だけでなく、賃金体系全体での位置付けにも留意する。 | 割増金の額が歩合給から控除される仕組みで、どこまでが時間外の対価か不明のため、判別できないとされた |
判決原文は、裁判所のサイトで公開されています(康心会事件の判決、国際自動車事件の判決)。
基本給とは別の手当にした場合
基本給とは別に払う手当が、時間外労働などの対価の固定残業代と認められるかどうかは、契約書等の記載のほか、会社が手当や割増賃金について行った説明の内容、従業員の実際の労働時間などの勤務状況を考慮して判断されます。厚生労働省のQ&Aは、この点を日本ケミカル事件の最高裁判決(平成30年7月19日)として紹介しています。
固定残業代を超えた分と不足分の支払い
固定残業代の額が、実際の残業時間で計算した割増賃金に足りないときは、差額を支払う必要があります。たとえば固定残業代が月に20時間分として設定されていて、その月の時間外労働が30時間なら、超えた10時間分の割増賃金は追加で必要です。
月ごとの計算では、基礎になる賃金から時間単価を出し、時間外・休日・深夜の労働時間数を掛けます。月給制の時間単価は、原則として月給を月の所定労働時間数で割って求めます。月によって所定労働時間数が違うときは、1年間の月平均の所定労働時間数で割ります(労働基準法施行規則第19条、e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」)。
割増率は、時間外・深夜が2割5分以上、月60時間を超える時間外が5割以上です(労働基準法第37条、e-Gov法令検索「労働基準法」)。
電気工事業では、現場の移動時間や待機の時間が労働時間に入るかどうかで、残業時間の数え方が変わります。数え方は移動時間・待機時間のガイド、記録の義務は労働時間の記録のガイドで確認できます。
求人と労働条件通知書での明示
求人を出すとき
固定残業代を定額で支払うときは、求人で次の3点を書面等で示す必要があります(職業安定法第5条の3、厚生労働省のQ&Aが引用する指針)。
- 固定残業代の計算方法(算定の基礎にした労働時間数と金額)
- 固定残業代を除いた基本給の額
- 固定残業代の算定の基礎にした時間数を超える時間外労働、休日労働、深夜労働には、割増賃金を追加で支払うこと
求人の書き方全体は求人の労働条件明示のガイドで確認できます。
雇い入れるとき
労働契約を結ぶときは、「賃金の決定、計算及び支払の方法」を書面等で示します(労働基準法第15条、同法施行規則第5条第1項)。固定残業代では、通常の賃金の部分と割増賃金の部分を判別できるようにしておく必要があるため、就業規則か労働条件通知書等で明確にしておくことを、厚生労働省のQ&Aは求めています。記載事項は労働条件通知書のガイドで確認できます。
運用前の確認チェックリスト
- 固定残業代の金額と、それに含める時間数を、通知書や就業規則で分けて書いているか
- 基本給と固定残業代が、給与明細でも別の項目になっているか
- 実際の残業時間を記録し、固定残業代の時間数を超えた月に差額を払う仕組みがあるか
- 固定残業代の額が、法定の計算で出る割増賃金を下回っていないか
- 深夜・休日の分を含めるなら、どの分を含めるかを書いているか
- 求人票の記載が、通知書の内容と合っているか
この整理で言えないこと
- 固定残業代に含める時間数の上限や、長さの妥当性は扱いません。
- テックジャパン事件など、判決原文を確認できていない判決の細部は扱いません。
- 特定の会社の固定残業代が有効かどうかは判定しません。
- 管理監督者や事業場外みなし労働時間制の人の扱いは別の制度です。
本記事は一般的な制度整理であり、個別案件の法的判定、電気工事の施工・設計、申請書類の作成や提出代行を行うものではありません。固定残業代の設計や過去の未払いの扱いは、所轄の労働基準監督署または都道府県労働局で最終確認してください。
まだ自身の区分を確認していない場合は、回答を保存・送信しない電気工事業区分セルフチェックを使うと、新規開業時の4区分の目安を表示できます。
次に知りたいことは、就業規則は就業規則の作成・届出のガイド、時間外の上限は36協定のガイド、監督署の調査は労働基準監督署の調査のガイドです。