公式資料をもとに整理
従業員が工具・社用車を壊したときの弁償と天引き
従業員が工具や社用車を壊したとき、会社は実際に生じた損害の賠償を請求できます。ただし、「壊したら○○円払う」とあらかじめ金額を決めておくことと、給料から一方的に引くことはできません。従業員を雇う電気工事業者が、弁償を求める前に確かめる点を、労働基準法の条文と大阪府の解説資料で確認します。
公開日: 2026-10-22 / 最終更新: 2026-10-22 / 診断ルールの確認日: 2026-07-26
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事前に決められないこと(賠償予定の禁止)
労働基準法第16条は、使用者が、労働契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約をしたりすることを禁じています(e-Gov法令検索「労働基準法」)。和歌山労働局の解説は、「途中でやめたら違約金を払え」「会社に損害を与えたら○○円払え」を禁止の例に挙げています(和歌山労働局「賠償予定の禁止(第16条)」)。
電気工事の現場では、「工具を失くしたら1万円」「社用車をぶつけたら免責金額を本人が負担」といった決まりを、就業規則や誓約書に書きたくなることがあります。金額や割合をあらかじめ決める書き方は、この条文に触れるおそれがあります。
実際に生じた損害の請求と、負担の程度
第16条は、現実に生じた損害の賠償を請求することまで禁じたものではありません。和歌山労働局は、あらかじめ金額を決めることは禁止されているが、現実に労働者の責任で発生した損害の賠償請求までは禁じていない、と説明しています。大阪府の解説資料は、これを昭和22年9月13日付の発基第17号に基づく扱いとして示し、請求の根拠に民法第415条、第416条、第709条を挙げています(大阪府「業務上の損害賠償」(令和8年3月更新))。
同じ資料は、損害の全額を労働者が負担すべきだとは考えられていないと説明しています。使用者が労働者の労働で利益を得ていること、両者の経済力に差があること、使用者が保険で損失を分散できることなどから、労使で公平に分担すべきだとしています。
裁判例として、4トントラックの運転中にスリップして車両を傷めた従業員について、会社が車両保険に入っていなかったことや、会社の安全指導や車両整備にも原因があったことなどを考慮し、負担する賠償の範囲を損害額の5%相当額とした大阪高裁の判決が紹介されています(K興業事件、平成13年4月11日)。同じ資料は、日常的に起こる性質の損害(例:コピーミス、食器の破損)は基本的に使用者が負担すべきとしています。工具の破損も、この考え方に当てはまる場面が多いと考えられます。
給料から引けない理由と、引ける場合
労働基準法第24条第1項は、賃金を、通貨で、直接労働者に、その全額を支払うよう定めています。大阪府の資料は、賃金債権と損害賠償請求権の「相殺」も控除の一種として禁止される、と整理しています。そのため、使用者はいったん賃金を全額支払ったうえで、別に損害賠償を請求する形になります。
例外として、労働者が自由な意思に基づいて賃金から控除することに合意したと認められる合理的な理由が客観的に存在する場合は有効とされています(日新製鋼事件、最高裁平成2年11月26日)。「同意書に署名させた」だけで足りるかは、事情によって判断が分かれます。控除の決まりの全体は賃金支払い5原則のガイドで確認できます。
労働者の同意を得ても、給料からの天引きが懲戒としての減給の制裁に当たる場合は、減給の制裁の上限を受けます。
場面別の早見表
| 場面 | できるか | 根拠 |
|---|---|---|
| 「壊したら○○円」と就業規則や誓約書に定める | できない(金額の予定にあたる) | 第16条 |
| 実際に壊れた工具・車両の損害を請求する | 請求自体は可能。負担の程度は事情で制限される | 民法第415条・第709条、大阪府資料 |
| 請求額を給料から一方的に差し引く | できない(全額払いの原則) | 第24条第1項 |
| 本人が自由な意思で控除に合意した | 合理的な理由が客観的にあれば有効とされる | 日新製鋼事件(最高裁) |
| 前借金と賃金を相殺する | できない | 第17条 |
弁償を求める前の確認チェックリスト
- 就業規則や誓約書に、損害額や違約金をあらかじめ決める書き方がないか
- 実際の損害の内容と金額を、領収書や見積書で書面にできるか
- 会社として保険(車両保険、賠償責任保険)に入っているか、使えるか
- 安全指導や工具・車両の管理に、会社側の原因がなかったか
- 給料からの天引きではなく、全額を支払ったうえで別に請求する形にしたか
- 控除に同意を得る場合、自由な意思によるものと言える経緯を残したか
事故に備える保険は電気工事の賠償責任保険の種類のガイドで確認できます。
この整理で言えないこと
- 個別の事故で、従業員に何割を負担させられるかは判定しません。
- 故意の破壊や横領など、重い責任が問われる場面は扱いません。
- 研修費用や資格取得費用の返還を求める合意は扱いません。
本記事は一般的な制度整理であり、個別案件の法的判定、電気工事の施工・設計、申請書類の作成や提出代行を行うものではありません。個別の損害賠償や賃金の控除は、所轄の労働基準監督署や総合労働相談コーナー、弁護士に確認してください。
まだ自身の区分を確認していない場合は、回答を保存・送信しない電気工事業区分セルフチェックを使うと、新規開業時の4区分の目安を表示できます。
次に知りたいことは、就業規則の作り方は就業規則の作成・届出のガイド、社用車の管理は安全運転管理者のガイド、退職時の賃金は退職時の賃金・証明書のガイドです。
一次資料の一覧は公式資料・根拠で確認できます。